紙モノというのは、ある意味エコロジーの大敵かも知れない。言ってみれば使い捨てにする必要のないモノを、わざわざ使い捨ての紙製品で置き換えて資源を使い捨てにしているとも言えるからだ。
最近では日本でも
キッチンペーパーやキッチンタオルなる調理用敷紙が一般化してきた。水切りや油取り、包んだり敷いたり、様々な用途に使われているようだ。
かつて日本手ぬぐいや晒しの布巾が一般的であったころに
布巾でやっていたことをする用途にも使われているようだ。
ところがここでちょっと注目したいことがある。
普通に日本で販売しているキッチンペーパーを、例えば食事の際の敷き紙に使い、パンを置いて食器代わりに供したとしよう。少しジャムやバターの染みが付いたその紙、そのまま
パンくずを包んで捨てるのではないだろうか。
野菜を包んで調理前に水気切りに使ったキッチンペーパー、せいぜいその辺りを拭いて捨てるのが関の山のように思うのだがいかがだろう。
日本製のキッチンペーパーは丈夫なちり紙と言う印象で作られているように思える。あるいはお茶席での懐紙の延長上だろうか。
だから、ある意味
使い捨てが徹底しているように思う。しかし、ティッシュペーパーの故郷アメリカのキッチンペーパーはちょっとイメージが異なる。
ティッシュ自体が使い捨てタオルの感覚で発明された物であるから、丈夫なティッシュとでも言えるキッチンペーパーは、
数度の洗濯乾燥に耐える紙製品といった風情なのだ。
アメリカで最も一般的に使われている
バウンティというキッチンペーパーは、強い油汚れででもない限り、普通に水や台所用洗剤で手洗いして布巾かけに干し、
再利用することが可能である。
もちろん布のように強くないから数回使えば破れてくるので、そこで拭き掃除に使って捨てれば良いのだ。ある意味、
布フキンとティッシュのイイトコ取りのようなイメージがある。
この辺りに日本とアメリカの使い捨て感覚の差が現れているようで、エコロジーを論じる時、ちょっと考えてみたい要素ではある。
しかし、何と言っても使い捨て紙の最右翼は
ティッシュペーパーだろう。
そんなに遠くない昔、ティッシュペーパーなどと言うもったいない使い方をする紙は存在しなかった。実際ティッシュ自体が女性の化粧用として、
使い捨てのできるタオルと言う形で登場したのは1920年代も後半、日本では大正の終わり頃である。
そして
日本に入ってきたのは戦後、それも東京オリンピックの年である1964年だ。
もちろんそれ以前の日本にもちり紙や懐紙など、使い捨てにする紙がなかったわけではないが、布に置き換えられた使い捨ての紙というのはティッシュの歴史にそのまんま重なると言っても良いだろう。
使い捨てがすべて悪という訳ではない。人類の歴史は感染症との戦いに明け暮れたと言っても過言ではない。その歴史の中にあってディスポーザブル=使い捨てがどれだけ感染症の蔓延に歯止めをかけたか、その貢献は計り知れないものだと言えよう。
その上、ティッシュなどの使い捨て文化が形成された現代においては、そのすべてを否定することなど到底不可能だと思える。
そこで、その中のいくつかの点に注目してみたい。
最近の世の中の流れは
エコロジー指向である。だからどんな商品にでもエコと付けて販売すればそれなりに営業成績が上がるという傾向すら見受けられるようだ。
ところが最近気になる商品が出てきた。いわゆるエコティッシュである。何がエコなのかというと、ティッシュの取り出し口にある
フィルムがないと言うことなのだそうだ。
最近のごみ分別において、ティッシュの外箱は紙容器、フィルムは包装用プラスチックとして分別しなければならない。だから、捨てる際に一々はがさなくても良いように
フィルムをなくしたらしいのである。
ティッシュは一部分を重ねて折ることによって、一組を取り出すと次の一組が頭を出すようになっている。しかし、単に箱の口を切っただけではせっかく頭を出したティッシュが箱の中に落ち込んでしまい、次の一組が取り出しにくくなるのだ。
そこであのフィルムが役に立つ。フィルムの伸縮性とティッシュの巾を利用して頭を出した
ティッシュが箱の中に落ち込まないように押さえているのである。
ところがこのフィルムをなくしたものだからティッシュが箱の中に落ち込んでしまう。これを防ぐためにメーカーは2つの方法をとった。ひとつは
箱の背丈を低くすることである。最近流行のスリムボックスである。
もともとティッシュの箱は8センチ以上の高さがあった。それが現在では5センチである。箱の背が低くなると中へ落ち込んでしまう率が下がることは言うまでもない。
もうひとつは取り出し口の形状の工夫である。中に落ち込まないよう、
ティッシュが引っかかるような形にしたというわけだ。
ただ、この形状のせいで、ティッシュは真上に引っ張らないと綺麗に取り出せない。斜めに引っ張ると
ティッシュが破れたりするのである。
しかも背の低い箱に従来の枚数を詰め込むと、最初の方は取り出しテンションが高すぎてティッシュの破れが多くなってしまうせいか、
初めから入っている枚数が少ない。
同じメーカーの物でも、フィルム付きが200組入りであるのに対してフィルムなしは150組入りだったりするのはこのせいである。
しかし、商業的に見ればそれで良いのだ。
取り出し時に破れやすければ、知らず知らずのうちに
消費量が増える。一箱に入っている枚数が少なければ、販売価格を安くできるので
スーパーの安売りに使って貰いやすくなる。
おまけに分別の手間が要らないエコな紙箱入りとなれば宣伝効果は抜群である。
しかし、実際には外装箱が従来の25%余分に必要となる、エコロジーとしてみれば無駄の多いシロモノであることには意外と気づかれていない。
エコロジーが商業的にだけ利用されている一例のような気がするのだが如何だろうか。